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尾上郷川の中では、このワサビ谷はいちばん遡行されている谷ではなかろうか。それを物語るように、散見するワサビ谷の記録は幾つかあった。
しかしアプローチは簡便であっても、遡行が簡単なわけではない。詰め上げる日照岳までの標高差が約950mもあり、その道のりは遙か遠い。日暮れ時期が早い季節だと、時間切れになって憂き目に遭うだろう。
遡行記録はあってもそこは尾上郷川の話。遡行中はほとんど人が入った形跡が見当たらないところを見ても、年間を通してこの谷はきっと 閑寂の空間 に包まれているに違いない。
ブナの森と巨大なトチノキ。希に見る巨大な ミズナラの大木 の姿には息を呑む。谷にはサワグルミの木々も多く、まさにここは自然の宝庫をイメージさせてくれる。
出合には30mの直瀑(画像上)があり、遡行はこの滝の始末から始まるが、その後も微妙なスタンス、ホールドをたどるへつりや直登が多く、この辺りは日頃の鍛錬と経験がものを言うところだ。
前半に現れる 15mの直瀑(画像下) は、左上する小さなバンドから直上をしかけ、小テラスから滝身右を直登する。が、ここの出だしが極めて際どく、リードしていたB君は不覚にも滑落、一気にランニングが吹き飛んでグランドフォールしてしまった…。
幸い下は胸まである 深い滝壺。横向きに反転して落下したこともあって大事には至らなかったのが不幸中の幸い。これが地面であれば、相当のダメージを食らっていたに違いない。高さは6m、二階の窓から飛び降りるくらいの高さがあった。
日照岳からの 眺望は素晴らしかった。今日は空気が澄み渡り、御嶽から北アルプスまでが一望できた。また山頂からは白山主峰も望むことが出来る。北に見えるガレの山は三方崩山で、その山容はいつ見ても圧巻だ。
さあ、気合いを入れて藪を漕ごう。目前には 緩く広大で気持ちのよい稜線 が続いている。しかしその中に突入すると、背丈を超す ネマガリダケと灌木 に行く手を阻まれ、見た目とはまったく違った、現実の世界へと叩き込まれるのであった…。
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