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以前、廃村加須良(かずら)や桂集落まで行くのには、崩壊して車の通れない加須良川沿いの林道をとぼとぼ歩いたものである。そして加須良から桂集落へ行く途中にある、「おのえ峠」にあった地蔵さんによく挨拶したものだった。
しかしこんな山奥に、よくも人は住んでいたものである。
NHK特集の、まだモノクロ放送の時代に、この加須良と桂をドキュメントした番組があった。それを何年か前に再放送で見ることができた。そのときすでにここの両村は「秘境の村」であり、映像はその秘境に住む村人が離村する寸前の、極めて貴重なものだった。
加須良と桂、名前がよく似ているが、互いに平家の落人伝説が残り、逃れた平家の一団がここに住みついたとされる話をどこかで聞いたことがあるが、そのような伝説が受け継がれていてもまったく不思議に思えないほど、ここはとてつもなく辺境の地である。少ない子孫を後世に残すために、山を隔てたそれぞれの地に、同じような地名を宛がえて互いに隠遁生活を営んでいたのかもしれないと、一人ロマンに思いを馳せたりもした。
映像では車道が延び、時代の波の中に廃れ行く山村の悲愁がまざまざと描かれていた。今はすべてがダム湖の底。人間は人間によって人間を征するという、哀れな生きものなのであることを再確認してしまった。
ちなみに加須良集落は昭和42年(1967年)に8戸すべてが離村、その3年後の昭和45年(1970年)、おのえ峠を隔てた桂集落も6戸すべてが離村。数百年に及ぶ両村の歴史にこうして幕が落とされた。
加須良川へは 境川ダムから延びている車道 を峠越えで徒歩で向かうが、あの記憶の中のおのえ峠は、今はここにはもう無い。それを越えると、広大な沢幅を持つ 加須良川 が目に飛び込んでくる。
下流部は平坦 だが、中身はなかなか濃厚である。源流右岸支流には、瓢箪山や国見山へ向かう支流も控え、まことバラエティーに富んだ銘渓揃いの谷である。
この谷の遡行も下山路のルートファインディングに悩まされる。ボージョ谷を下降するなら、もう一日ばかりの余裕がほしいところ。また、F1(画像上)出合右から注ぎ込む「連瀑谷(仮称)」は登攀要素を内包した大滝が控える谷なので相応の準備をして入渓されたい。
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