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境川を代表する谷と言ってもいいほど、沢登りのすべてが凝縮された銘渓である。しかし境川ダムの建設によって、入山口となる廃村桂集落の、往時の静かな面影はもうここには無い。あのもの悲しいまでの歴史の跡は、今は小さな記憶の断片となってしまった。
源流で大きく谷は分岐する。右に通称「右又ゴルジュ」、左に「スラブ大滝」。どちらも高度なルートファインディングを要し、この難関の通過にかかる時間によって日程にも相応の準備が必要になってくる。
また下流部800m付近の左支流「大谷ルンゼ(仮称)」と「大谷」はどちらも大味の谷。大谷F1、25m は爽快なクライミングで越えられるので比して面白いと言える。
滝上に出ればどちらも急激に谷の勢いは落ちる。しかしそこまで到達するのが容易ではない。「境川は変わった」とは言え、谷中の威厳は以前のままだ。
沢登りは溯行すればいい、そういうものではないと思う。そこには自分なりの溯行ポリシーが貫かれてなくてはならない、僕はそう思う。滝や難関の前に立ったときには、その時に自らが何を決めてそこに挑むか、それがなにより重要だと思っている。あるいは自らの溯行価値はそこで決定されるのではないか、とさえ思う。
新しいことに挑むことはなかなか難しいものだ。しかし、例え他人と同じ発想で物事を考えたとしても、その時に自らが何を思って挑むか、それによって溯行は印象深いものになったり、そうでなかったりする。短絡的、安直な発想をかなぐり捨て、持てる力量を存分に発揮して溯行したい、最近よくそんなことを考える。
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